弊社CEOアマッド・ワニのインタビュー記事が、気候変動分野の起業家インタビューシリーズ「THE TORCH」に掲載されました。インタビュー抄訳を以下に掲載します。
「THE TORCH」は、気候変動の軽減に取り組むCEOを紹介する、Entrepreneurs for Impact によるインタビューシリーズです。
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なぜOne Concernを立ち上げたのですか?
私が起業家になったのは偶然です。スタンフォード大学で地震工学の博士号を取ろうとしていた2014年8月に、インドのカシミール地方にある実家に帰っていました。
実家にいる時に洪水が発生し、あっという間に3階まで水に浸かりました。それから7日近くも屋根の上で過ごさなければなりませんでした。それでも私たちは運が良かったのです。地域の85%が水没し、多くの人が亡くなったのですから。この出来事をきっかけに、防災対応や先進的な警告システムについて、そして災害の多くの根本的な原因である気候変動について、いっそう考えるようになりました。
この分野に真剣に取り組み始めると、災害の統計的分析の大部分がかなり遅れていることが分かりました。しかも、災害対応の真の価値は、実は災害発生前の事前対策にあるのです。そこで、より優れたリスク分析システムの研究に着手しました。そしてスタンフォード大学に在籍していたAI研究専門の学生数名や多くの教授たちと共に、この種の災害をより正確に予測するための改良版モデルを開発することができました。結果的に、それが当社の立ち上げの概念実証になったのです。
One Concernのサービスはどのような顧客を対象としていますか? 誰がクライアントになるのですか?
当社の使命は、安全性、持続可能性、公平性を重視しつつ、レジリエンスを高めることです。
住宅所有者、小規模事業者、各レベルの政府機関を含めたあらゆる人々にサービスを提供するレジリエンスエコシステムは、すでに存在しています。住宅所有者レベルのエコシステムの具体例として、さまざまな保険や関連するリスクマネジメント商品があります。
私たちは、まずこのエコシステムの改善に重点を置き、米国西海岸の自治体に価値を提供することから始めました。最近は日本でも事業を展開し、大手保険会社をはじめとする多くの企業と提携しています。
レジリエンスの価値は事後対応ではなく事前対策にあるため、当社は長期予測とリスクマネジメントの初期段階に力を入れています。これは短期予測をしないということではありません。例えば日本では、降雨の影響と1週間以内の台風の動きを予測するプロジェクトに取り組んでいます。一方で、影響力を最大化するため、組織や政府機関が事前にリスクを把握できるよう支援するプラットフォームとなることを目指して取り組み、それらの決定に必要となる財務上および方針上の支援も提供しています。
One Concernは気候変動をどのように考えていますか?
気候変動はレジリエンスの重要性を高めています。昨年まではレジリエンスを重視する必要性は明確でなかったかもしれません。しかし新型コロナによって、当社のプラットフォームを通じて提供しようとしているこの種の事前の長期計画やリスク軽減の価値が証明されました。
それは気候変動にも当てはまることから、企業や政府機関に向けて、気候変動に伴うリスクに前もって対処することの重要性を主張していきたいと考えています。各組織にとってのリスクを、具体的な事業やユースケースで(例えばIPCCの報告書から得られる情報と対比して)より具体的に分かりやすく伝えることも当社の仕事の一つです。
多くの企業は、比較的安全な地域に頑丈なインフラを多数所有しています。単に、海岸沿いの建物が被る災害の影響を想定してのことではありません。そのため、当社と提携する企業の多くが、最初は、考え得る自然災害のほとんどに対処する準備が整っていると考えています。
しかし、広い意味でのリスクに含まれるサプライチェーン、従業員、顧客に対する災害の影響が見落とされがちです。当社は、お客様やパートナーの教育だけでなく、お客様やパートナー自身がリスク軽減計画を策定できるようなプラットフォームの提供を目指しています。
競合他社についてはどのように考えていますか?
当社にとって挑むべき相手というのは、これらのシナリオに依然として準備ができていない状況そのものです。
洪水リスクモデリングなどの比較的ニッチなアプリケーションを展開するリスクモデリング企業は数多くあります。しかし私たちはリスクモデリング企業になりたいわけではなく、「サービスとしてのレジリエンス(Resilience-as-a-Service)」に力を入れています。当社が目指しているのは、クライアントがビジネスケースのリスク分散を実現できるよう能力を高め、そうしたリスクの軽減においてパートナーとなることです。
最終的には、クライアントが全体像を理解し、自分たちに合った一連のリスク軽減措置に取り組めるようにしたいと考えています。当社の真の使命は、エンドユーザーのレジリエンスを高めることです。
ビジネスモデルイノベーションについてはどのように考えていますか? 例えば、広範な構造的リスクや体系的リスクをモデリングして理解する能力を踏まえて、RFPマネージャーになることも考えられたのでは?
興味深い質問ですね。消費者と企業は、高額なソリューションでも、追加の価値をもたらすことが分かっていれば進んで購入します。それを当社の事業に適用したいと私たちは考えています。追加の価値が例えばエンジン性能ではなくレジリエンスだったとしても、基本的には同じことです。
例として、スタンフォードの病院で停電した場合の影響を考えてみましょう。重要な手術がある病院は長引く停電に耐えていられません。また、PG&E(米電力大手)が山火事のリスクによる法的責任を回避するために計画停電を行うことも増えており、それも問題になっています。当社は、停電に対して最も脆弱な場所を特定し、その脆弱性に適切に対処するソリューションを提供することで、多くのエンドユーザーにとっての価値を創出できます。
ただし、これは短期的なソリューションにすぎません。最終的には、幅広いソリューションの一つとして、インフラの脆弱性に伴うコストを証明する分析を企業や人々に提供することで価値を提供できると考えています。さらにその分析を利用し、ある程度のコスト削減を実現することで、ソリューションコストに見合うプロジェクトレベルでの資金調達が可能になります。
新型コロナはOne Concernの事業にどのような影響をもたらしましたか? また、事業分野にどのような影響があったと思いますか?
新型コロナは、当社のお客様だけでなく投資家までもが、この種のテールリスクを軽減する重要性とその価値について理解を深めるきっかけになりました。全体として見れば、新型コロナとそれに伴う異なるパラダイムシフトの影響によって、世界中の企業と政府が長期計画の価値を実感できたのではないでしょうか。
その結果として当社は資金調達ラウンドを完了させることができました。想定外に、新型コロナが当社のビジネスモデルを後押ししたのです。一方で私は、人への影響、つまり人々が今回のパンデミックに際して感じたことに注目したいと考えています。家族の健康への直接的な影響を懸念するだけでなく、仕事について、あるいはクライアントとインタラクションを図れるデジタルファーストの職場について、あらためて考えざるを得ませんでした。そういったプロセスがたわいないことだったかのように語りたくはありません。
また、さらに広い視点から、新型コロナによる不平等と格差の拡大に注目したいと考えています。手頃な高速インターネットへのアクセスであれ在宅勤務を行える能力であれ、この国に存在する経済格差、そしておそらく人種的格差の多くが、今回のパンデミックによってさらに拡大したことは明らかです。近い将来のインフラ投資に際してこうした不平等の多くに取り組むことは、すべてのビジネスリーダー、学者、そして特に政府関係者の責務だと言えるでしょう。
One Concernのような企業は、ほとんど苦労もせず一夜にして成功を収めたように見られることが多いのではないでしょうか。そうした見方を払拭するため、起業に伴う困難を乗り越えてきた経験や、そこで身に付いた考え方についてお聞かせください。
とても重要な質問ですね。みんなもっとそれを聞いてくれたらいいのですが。私は、何よりも粘り強さが大切だと思っています。最初に資金調達をしようとした時、私と共同創業者は60人の投資家に会いました。5分しか話を聞いてもらえず、One Concernとしてそんなプロジェクトに時間を費やさずに次なるSnapchatのような事業に取り組むべきだと言われたこともあります。
最初の2万5,000ドルを調達するのに8カ月かかりました。構造工学が専門の私はそういったことに不慣れだったため、かなり時間がかかったのです。しかし本当の困難は、基本的なことを理解し、資金調達ができるようになった時に訪れました。得られる売上に対して会社の規模が少し大きくなり過ぎていて、最初からいた従業員の解雇、つまり人員削減をせざるを得なくなったのです。
そういうことがあると、あきらめてしまいたくなることも多々あります。この最初のとてつもなく苦しい時期を乗り越えて進み続けるには、理屈に合わないこともある程度受け入れなくてはなりません。私は、ここであきらめて、親友と言い切れる共同創業者をがっかりさせるわけにはいかないと思いました。大切なのは、揺るぎないモチベーションの源と、避けられない困難を乗り越えるための粘り強さを持つことではないでしょうか。
集中力とモチベーションを保つための個人的な習慣や、実践していることはありますか?
料理が大好きです。私にとって料理は瞑想のようなもので、力を抜いてリラックスできます。そのおかげか、昔からおいしいものを作って人間関係を広めてきたように思います。スタンフォードでの学生時代にも、12人の友人グループの中でよく料理を作ってふるまっていましたが、そのうちの多くが今ではOne Concernで働いています(笑)。
大局的に言えば、レジリエンスとはグローバルな視点を持つことにほかなりません。シリコンバレーやメンローパークといった虚構の中に飲み込まれるのは簡単ですが、その虚構から外に踏み出すことでそうした視点を保ち、私たちが享受している特権に感謝することがとても重要です。私はイスラム教徒なので、毎日の祈祷でも心の平穏を得ています。
好きな言葉、ポッドキャスト、本などで、他の人にも役に立つと思われるものはありますか?
正直に言って、私は本を読むより人と話す方が好きです。ただ、セオドア・ルーズベルトの「アリーナに立つ男(Man in the Arena)」というスピーチは気に入っています。とてもつらい日もたくさんありますが、最終的には、目標を定め、使命に向かって突き進み、うまくいけば成功を味わう大胆さこそが大切なのではないでしょうか。
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※本インタビューは、気候変動に取り組むCEOのためのエグゼクティブコーチングマスターマインドプログラム「Entrepreneurs for Impact」の創設者であるクリス・ウエディング博士により行われました。偶然にもウエディング博士は日本に3年間住んでいたことがあり、日本を第二の故郷と考えています。