米国では昨年、大被害をもたらした気象災害の記録が塗り替えられました。
気候変動によって、災害の深刻さと頻度は増大します。プロテクションギャップが拡大し、あらゆる規模の組織や地域社会にとって、無保険の経済損失による負担をカバーすることが難しくなります。こうした問題を解決し、レジリエントな減災ソリューションとリスクマネジメントの強化を後押しするため、One Concernは「One Concern Domino™」と「One Concern DNA™」という革新的なツールを新たに開発しました。精選されたデータに基づくインタラクティブな気候リスクインテリジェンスソフトウェアで、金融サービス業界が気候災害を分析し、その影響に備えられるように支援します。
当社の製品イノベーションを解説するため、One Concernでマーケティング・アソシエイトを務めるケイシー・オブライエンが、共同創業者兼最高技術責任者(CTO)であるニコール・フーと、データサイエンス・ディレクターであるシャバーズ・パテルにインタビューを行い、画期的なテクノロジーが開発されるまでの道のりについて話を聞きました。
ケイシー・オブライエン:
他の気候モデリングソフトウェアとは違う、One Concern DominoとDNAならではの特徴は何ですか?
ニコール・フー:Dominoは、地震や洪水を含む気象災害などのハザードによる地点別のリスク特定に加え、個々の被害が事業インフラネットワーク全体に波及し、それがビジネスに与える間接的なリスクを特定できる機能を備えており、米国で他に類を見ない製品です。これほどの規模の製品を提供しているところは、他にはありません。
その背景には、作成・収集したデータを一つの場所に統合するという新たな取り組みもあります。すべてのデータを統合し、構造化して、お客さまが理解しやすく、実行しやすいようにすることは、相当な労力がかかりましたし、大きな課題でもありました。
二点目に、RCP 4.5(中位安定化シナリオ)に基づいて、場所やアセットに特有の影響の予測モデリングを行っていることです。このように複数の観点を踏まえて、いくつものタイプの影響を扱っているマップは、きっと他にはないでしょう。
最後に、新しい製品を通じて、情報にアクセスする方法を二つ提供している点です。基礎的データのみ欲しい場合やそのデータに基づくレポートを手っ取り早く読みたい場合も、当社のDNAを通じて非常に効率よく情報を取得することができます。
分析のカスタマイズも可能です。当社のエキスパートであるデータサイエンティストがデータを見て、多数のファクターに基づいて、特定の企業にとって分かりやすい形にデータを解釈します。それをもとにお客様は、気候リスクの緩和や財務・投資などの年間計画を立てられます。ただソリューションを作るだけでなく、専門家の知見も常に活用いただけるようにしたことで、当社は気候変動の影響に関する重要なインサイトを継続的にお届けすることができます。
また最先端の可視化ツールであるDominoは使いやすく、難しいところは一切ありません。マップ上で素早く検索して、米国全土の数百万もの建物のデータにアクセスし、短時間で重要な意思決定に必要な情報を取得することができます。
ケイシー・オブライエン:今回の開発にあたり、どのような技術投資を行いましたか?
シャバーズ・パテル:さまざまな気候シナリオにおける施設のダウンタイム・スタティスティクスを作成するため、データ収集とモデル構築に投資しました。その際、モデルの完全性を高めるために、一部のデータを合成で作成しました。例えば電力インフラについては、変電所のリストが公開されていて、その情報は誰でも見られます。この情報を次のレベルに引き上げるのが私たちの仕事です。ネットワークアルゴリズムを使って模擬的な配電線網を作り、特定の建物につながっている変電所のマッピングを行うのです。こうすることで、アセット単位の影響や、建物に電力を供給する経路上の配電線における影響を、どうやって定量化すべきかが分かります。データがなければ、合成してデータを作ります。データ以外にも、こうした建物が依存する事業インフラの脆弱性や復旧のモデル開発にも投資しました。このように、大掛かりな計算ができることが、私たちの主な差別化要因の一つです。依存関係を考慮した大規模な分析は、他の既存ソリューションには不可能です。
ケイシー・オブライエン:今後、災害や依存関係のモデリング機能やパラメーターが拡充される予定はありますか?
ニコール・フー:まさに、そうしたいと思っています。当社のレジリエンスソリューションは継続的にアップデートされていて、新しい機能も徐々に取り入れています。モバイル通信と水道インフラも、その一つの例です。そうすることで、市場で最も包括的なソリューションの提供を目指しています。
ケイシー・オブライエン:モデルの正確性の確保や、バイアスの最小化はどのように行っていますか?
ニコール・フー:私たちにとって、正確性は極めて重要です。常に最新のデータを取得し、世界中の洪水マップや気候マップなどを把握することで、現状に即した信頼できる正確な情報を確保しています。
One Concernの方法論や計算プロセスのワークフローは、テクニカルワーキンググループ(TWG)のアドバイスを受けて定期的に検証されます。TWGは外部の有識者の集まりで、関連する研究分野の専門家で構成されています。検証では、過去のデータの活用状況や公表されている研究との比較結果を反映することで、高いレベルの正確性と堅牢性を確保しています。またOne Concernはレジリエンスモデリングに特化した社外の研究コミュニティでも積極的に活動しており、さまざまな学会で定期的に研究成果を発表しています。
シャバーズ・パテル:例えば地震モデルに関しては、さまざまな地震から大量のデータセットを収集しました。慎重なレビューを経て明らかになったのは、一般化可能性として、被害推定に関する当社のアウトプットの多くにおいて、いくつかのインプットパラメーターに関する情報が不足していることでした。これでは、データセットに不均衡が生じる可能性があります。この問題に対し、物理モデルと機械学習のテクノロジーを活用して合成データセットを作成し、入手しうる情報をもとにデータギャップを埋めることで解決を図りました。
脆弱性を評価する機能もありますが、これは物理学をベースにした学習に基づいています。物理学によって機械学習モデルに必要なデータセットを追加で作成し、モデルの訓練のために、考えうるすべてのインプットパラメーターに対してバイアスのかかっていないデータセットを取得します。これを基準モデルとし、新しい国に適用する場合には、その国のデータに基づく学習により、モデルを改良します。
ケイシー・オブライエン:One Concernにとって、今はおもしろい時期だと思います。当社は継続的な成長を目指していますが、技術チームを拡大する中で、求めるスキルセットは何でしょうか?
シャバーズ・パテル:災害科学や気候科学、脆弱性、復旧、ポートフォリオモデリングに強いデータサイエンティストを常に求めています。また、デジタルツインの作成やレジリエンスモデリングの改善ができる機械学習のスキルも重視しています。当社で働くデータサイエンティストは、コミュニケーション、好奇心、チームワーク、共感を大切にする人材でなければなりません。
データサイエンティストはさまざまなステークホルダーと関わるので、製品のバリュープロポジション(顧客に提供する価値)とデータサイエンスの評価基準を結び付ける力も欠かせません。ほとんどのユーザーは恐らく、普段の業務で確率的予測を扱うことに慣れていません。そのため、予測結果を理解して、当社の製品とユーザー自身の考えをもとに正しい意思決定をするためには、モデルの不確実性を伝えることが極めて重要です。また、その分野で広く知られた課題があるために従来解決されてこなかった問題に新風を吹き込むには、好奇心や積極性が役に立ちます。
ニコール・フー:当社は世界中にある数兆ものデータポイントを活用する事業を行っているため、大規模なデータシステムを扱った経験のあるエンジニアやデータサイエンティストを求めています。ここでは、前例のない困難なスケーリング問題を解決することに関心が高いエンジニアが活躍できます。また、優れたプロジェクト遂行の経験を持ち、チームプレイが得意で知的好奇心が強い人材を迎えたいです。