気候変動により、世界で異常気象が頻発する新たな時代に突入した今、気候変動が不動産、インフラ、企業、地域社会に及ぼす影響をレジリエンスモデリングによって評価するための進化したアプローチが求められています。21世紀の私たちが直面する脅威の様相は気候変動によって変化し続けており、意思決定者は予測分析、高解像度のモデル、リスクに関して起こり得る結果の確率分布を得る必要があります。質の高いデータとモデルがあれば、自然災害の影響を軽減する対策の有効性が向上します。個別の資産レベルから市場全体におけるリスク、レジリエンス、影響の全体像を把握することができなければ、気候変動対策は大いに滞ることになります。
最近の例を挙げると、リスクをモデル化する従来のアプローチでは、沿岸にある建物群は総じて沿岸の気象現象に対して脆弱であり、内陸に位置する建造物は高潮に対するリスクが低いと見なされていました。これは、過去の事象データのみに基づいて導き出された仮定にすぎません。
しかし、気候変動に伴い、過去の事例に当てはまらない気象現象によって予想外の結果やドミノ効果が発生する頻度が高まっていることから、リスクやレジリエンスの評価に対する考え方も変化しています。One Concernがリスクやレジリエンスのモデル化に取り組む際に、特定の建物のリスク以外にも目を向けるのはそのためです。当社はインフラや地域社会といった、人々の生活に欠かせないライフラインネットワーク全体に着目しています。
One Concernのアプローチ
当社はリスク分析を見直し、電力や輸送といった基本的なライフラインネットワークのデジタルツインを活用しています。デジタルツインにより、ライフラインに障害が発生した場合の影響を簡単に視覚化することができます。また、変化し続ける世界を分析する上で、過去のデータのみに依存するのではなく、先見的な予測モデルに基づいて未来のイベントを予想しています。
こうしたダイナミックなアプローチを活用することで、世界各地に影響を及ぼし得るにもかかわらず見過ごされているリスク要因が特定できるようになりました。気候変動の影響で、以前は災害に強いと考えられていた内陸地域でも、河川に近接していることから、より洪水の影響を受けやすくなっています。新たな気候データを考慮し、こうしたネットワーク効果を建物レベルでモデル化することにより、古い手法では分からなかった本当のリスクが明らかになります。
図:リスクモデルの従来のアプローチによると、「パンハンドル」と呼ばれるフロリダ州北西部の地域は洪水リスクが極めて低いとされている。
図:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が示した気候変動予測に関するRCP4.5(中位安定化)シナリオに基づくと、「パンハンドル」の内陸部は2050年には水深比105%という深刻な洪水に見舞われる可能性がある。
上記のような見過ごされているリスク要因は、異常気象の新たな現実を表すものであり、気候変動がリスクモデルやレジリエンスモデルに及ぼす影響を識別し、対応するための包括的なアプローチの必要性を示唆しています。このように新たに浮上したリスクや結果について、気候変動によって生じる未来を反映した新しいパラメーターに基づいてモデル化する必要があります。
リスクとレジリエンスをパラメーター化する確率モデルによる科学的アプローチ
気候変動により、従来のリスクモデルの枠組みは、どのような種類のデータやリスクを見落としているのかすら分からない、「未知の未知」と言うべき世界に入っています。
One Concernの高度なレジリエンス・インテリジェンス・プラットフォームを活用することにより、気候変動リスクは「既知の未知」としてレジリエンスモデルに組み込まれ、大幅なリスク軽減を図ることが可能になります。
当社では、甚大な被害をもたらすような気象現象を既知のパラメーターによって特徴づけます。その上で機械学習を「データの欠落部分を埋める」ために用い、幅広いシナリオの裏付けとするため、たとえデータセットが不完全な場合でも、個別の物件レベルでリスクシナリオを分析することが可能になります。
リスク/レジリエンスモデルは、従来の統計的手法から、機械学習や人工知能(AI)を駆使したより高度な手法まで、さまざまな機械知能に基づいています。従来型の手法は相対的にデータ量が少なく、拡張が容易です。一方で、機械学習やAIを活用した高度な手法は精密な分析が可能ですが、膨大なデータや洗練されたモデルサポートチームが必要です。
・気候変動リスクを1つ1つの物件レベルのリスクに変換するという複雑な作業を行うこと
・意思決定のためのレジリエンスモデル
これらの2つは、データ、モデル、リスクの緩和に対するユースケースに関する深い理解が求められます。One Concernは、大規模で現実的な意思決定を強力に裏付ける上で、機械知能を用いたどのアプローチが最適かを判断するのに必要な専門知識、経験、データアクセスを有しています。当社は質の高いデータと機械学習を武器に、建物の弱点、依存度の高いライフラインネットワーク、脆弱な地域社会、危険な状況にある重要インフラを自然災害が襲う前に、多くのシナリオのシミュレーションを行うことができます。
当社が最終的に目指しているのは、予想被害の確率分布の詳細なマッピングを通じたより良いレジリエンス管理のサポートです。
レジリエンスの溝を埋めるリスクプライシング
リスクやレジリエンスを正確にモデル化することにより、企業や地域社会、政府は、保険、保険リンク証券、あるいは先進的なレジリエンス証券を通じ、リスクをプライシングし、軽減、移転することが可能になります。歴史的に見て、貧しい地域やその他行政サービスが十分に行き届いていない地域では、社会経済的理由に加え、災害軽減のための投資が行われてこなかったことから、自然災害の影響を不当に強く受けてきました。中でも重要な要素は、保険が掛けられていない資産です。
例えば、過去10年間のうちにイタリア東部やニュージーランドのクライストチャーチでは、大規模な地震を経験しています。ニュージーランドではほとんどの資産に保険が掛けられていましたが、イタリアでは一部にしか掛けられていませんでした。現在、クライストチャーチは完全に復興していますが、イタリアの地域社会は壊滅的被害から依然として回復できていません。
保険の不足を招いている原因として、当時も今も変わらず保険会社、投資家、不動産所有者、政府を悩ませている問題は、リスクとレジリエンスの定量化・金額化です。モノに価格を付けることができなければ、それを保証することも取引することもできません。企業がどの程度依存しているかを理解しなければ、さまざまなリスクを適切に引き受けることはほぼ不可能です。このことはレジリエンスの体系的な向上を困難にしています。イタリアの地震災害では保険の不足のために経済的影響が長期化していますが、ニュージーランドでは適切な保険が復興を可能にしました。
高度なリスクモデルは、評価と管理の両方の改善に寄与します。One Concernが持つデータや機械学習のシステムを活用することで、予想される被害の確率分布をパラメーター化し、定義することが可能になり、リスクの適切な移転と軽減を通じて地域社会のレジリエンスは向上します。
保険業界と資本市場は、民間セクター全体に幅広く適用可能なアプローチを構築する上で極めて重要な存在です。リスクとレジリエンスを金額化することができれば、それを管理することもできます。適切な計画を立て、災害が発生する前に問題に対処することができるのです。
ジェフリー・ボーン (Jeffrey Bohn):One Concern最高戦略責任者。カリフォルニア大学バークレー校のConsortium for Data Analytics in Risk(CDAR:リスクに関するデータ分析コンソーシアム)で理事を務める。