適切に設計され、広範囲をカバーできる保険は、個人、組織、地域社会が自然災害から迅速に復興するための手段を提供するものであり、自然災害に対する社会のレジリエンス向上につながります。しかし残念なことに、保険が掛けられた資産と無保険の資産との間のプロテクションギャップは拡大する一方であり、スイス・リー・インスティテュート(Swiss Re Institute)によれば、その額は2020年には1.4兆ドルに達しています。
気候変動はプロテクションギャップの最大の要因であり、あらゆる規模の組織や地域社会にとって、無保険損害による経済損失を負担することはますます困難になっています。例えば、米国の洪水による年間の経済損失は平均190億ドルに上り、そのうちの74%は無保険損害によるものです。
大半の企業は事業中断保険(BII)への加入を望みますが、保険料の手頃な商品がないことが保険におけるプロテクションギャップの解消を妨げています。詳細なモデルがないため、小規模企業のBIIリスクを引き受けるのは採算が合わないということが、プロテクションギャップが埋まらない要因となっているのです。そのため、ほとんどの小規模企業および多くの中規模企業は手頃な保険料のBIIを見つけることができずにいます。
また、データの収集、キュレーション(情報精査・整理)の難しさ、そしてこれはおそらく気候変動によってリスクプロファイルが変化していることが関係していると思われますが、予測に基づいた採算の合わないBIIモデルにより、保険会社はBII分野での引受能力を抑制しています。
さらに、もう一つの重要な課題として、BIIは一般的に建物への直接被害による操業不能しか補償しないことがあります。しかし、企業側は拠点に直接的被害が及んだかどうかに関わらず、あらゆる操業中断への保険適用を必要とします。災害は往々にして、電力網や輸送システムなど、企業が依存するさまざまなネットワークに被害を及ぼし、甚大な経済的損失をもたらします。
こうした3つの問題の結果、BIIについては、内容が適切でない、リスク全体をカバーしていない、あるいは単純に保険料が高額なため多くの中小企業にとって手が届かないといったことが起こりがちになります。
One Concernに入社する以前、私は世界屈指の大手再保険会社であるスイス・リーで働いていました。そのため、幅広い災害リスクの軽減や関連リスクの移転に役立てられるような、詳細かつ包括的で比較可能なレジリエンス・スタティスティクスが不足していることを、業界の内側から見てきました。また、同じく詳細なレジリエンス・スタティスティクスが不足していることから、気候変動シナリオは通常、既存のリスクモデルに直接的には組み込まれていません。One Concernが取り組んでいるのはこのギャップの問題です。
One Concernは、データと機械知能を活用して自然災害に対するレジリエンスを測定し、ハリケーンや地震など特定の自然災害によって事業用不動産の通常使用が妨げられる可能性をレジリエンススコアという形で数値化するという事業戦略を持っています。レジリエンススコアは、特定の災害事象によりその不動産が操業不能となるダウンタイム(時間や日数)の推定にも役立ちます。既存のレジリエンスの評価モデルを調整するための分析を提供することで、気候変動が引き起こす自然災害に対するリスク評価をサポートする、これがレジリエンススコアです。また、昨今ではリスク軽減の提案は投資利益率(ROI)という客観的評価に基づいて行われ、気候変動や自然災害リスクに対するレジリエンスも考慮されるようになっています。こうした分析ツールは、リスク管理の正確さと有効性を向上させます。One Concernは、リスク軽減の基準として、レジリエンス測定のグローバルデファクトスタンダードとなることを目指しています。
大まかに言えば、One Concernが開発するレジリエンススコアとは、拠点や事業のバリュエーション(価値評価)と、発生する可能性は低いが発生すれば重大な影響を伴うあらゆる事業停止を結び付けることによって災害リスクを表すものであり、その顕著な例が気候変動によって深刻化する自然災害だということです。資産バリュエーションにレジリエンスの差が反映されるようになった時、One Concernのレジリエンススコアや関連するレジリエンス・スタティスティクスを採用していれば、顧客は先行者利益を得ることができます。環境関連の他の分野でも見られるように、先進的な分析を取り入れることで、バリュエーションの向上につながる差別化要因を市場価格に浸透する前にいち早く捉えられれば、有利なアルファ戦略を見出すことができるはずです。
現在One Concernは、関心のある市場参加者に対し、既存のバリュエーションモデルとリスク管理モデルにレジリエンスを組み込んでシームレスに調整する、レジリエンス調整バリュエーション(RAV)の策定支援を行っています。このアプローチは、災害リスクのヘッジ、軽減、管理、移転を大幅に向上させます。One Concernは、今後、レジリエンススコアやRAVに基づくレジリエンス取引が発展すると見込んでいます。
その間も、レジリエンスを基にした適切なポートフォリオを構築していれば、先行者利益によって高いリスク調整後リターンが生み出されるでしょう。
ジェフリー・ボーン (Jeffrey Bohn):One Concern最高戦略責任者。カリフォルニア大学バークレー校のConsortium for Data Analytics in Risk(CDAR:リスクに関するデータ分析コンソーシアム)で理事を務める。